テクニカルエンジニア(ネットワーク)過去出題問題

 平成9年 午後2 問2

最終更新日 2006/02/26
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Tomのネットワーク勉強ノート
 過去問(午後)
   テクニカルエンジニア (ネットワーク)過去問(午後)
     テクニカルエンジニア(ネットワーク)過去問 平成9年 午後2 問2

問2

オンライン物流システム導入に伴うネットワークの再構築に関する次の記述を読んで、設
問1〜4に答えよ。

P社は、生活用品の販売会社で、全国に7か所(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、
福岡)の営業所と2か所(東京、大阪)の倉庫をもっている。社員は600名で、そのうち350
名が東京の本社に勤務している。

P社では、販売する商品ジャンルの多様化に伴い、新たな取引先の拡大を推進している。
新規取引先と従来の取引先とでは商習慣が異なり、新しい業態に対応した情報システムが必
要になった。P社では、この新しい業態、新規販売ルートの拡大に対応するために、オンラ
イン物流システムを再開発することにした。オンライン物流システムはクライアント、ロー
カルサーバ、メインサーバから構成される。クライアントは、本社と営業所及び倉庫に設置
する。オンライン物流システムの受注入カ、日報作成、受注確認、各種マスタメンテナンス
処理などは本社と営業所で行い、これらの処理の大部分はクライアントとローカルサーバ間
で実行される。一方、在庫データの更新、伝票発行及びバッチでの集計印刷などの処理は倉
庫で行い、これらの処理はクライアントとメインサーバ間で実行される。そのため、ネット
ワークを流れるトラフイックを考慮して、ローカルサーバは本社と営業所に設置し、メイン
サーバは東京と大阪の倉庫に設置することにした。オンライン物流システムは、サーバ上で
関係データベース管理システム(RDBMS)を稼働させ、クライアントのパソコンからSQL
文によってサーバのRDBMSとやり取りを行う、TCP/IPによるクライアントサーバ方式の
システムである。

P社では、オンライン物流システムの導入に合わせ、本社と営業所及び倉庫(以下、本社、
営業所、倉庫をまとめて"拠点"という)にLANを増設し、これらのLANをWAN回線で相
互接続する、図1の全社ネットワークを構築した。WAN回線は、通信事業者Q社の専用回
線を利用している。本社と倉庫間は48kビット/秒、営業所と倉庫間は19.2kビット/秒の専
用回線である。ネットワークアドレスはプライベートアドレスを利用している。東京倉庫は
札幌、仙台、東京、名古屋の各営業所からの受注に対する出荷処理を行い、また大阪倉庫は
大阪、広島、福岡の各営業所からの受注に対する出荷処理を行っている。ネットワークもこ
のような出荷処理形態に合わせ、東京と大阪の2か所の倉庫を中心とするスター型の構成と
した。また、倉庫間のデータ伝送が必要なことと、システム全体を本社システム部が運用管
理する必要から、倉庫間は本社を経由して接続する形態とした。本社に設置されている汎用
機は、以前から直接LANに接続し、メーカ固有の通信プロトコルで本社内の端末と通信し
ていた。汎用機の端末は本社だけに設置しているが、将来営業所にも設置する予定があった。
そこで、今回の全社ネットワークの構築に合わせ、汎用機のLANを全社ネットワークに統
合することにした。しかし、汎用機の通信プロトコルはルータによるルーティング処理に適
合しなかったので、汎用機のデータ転送にはルータがもつ学習機能付きのブリッジ機能を利
用した。



図1 P社ネットワーク構成

本社システム部では、稼働中のシステムの維持、新システムの開発、導入機器の選定、手
配、導入、構築及びシステム運用のためのヘルプデスクサービスなどを行っている。今回、
全社ネットワークの構築とオンライン物流システムの開発を行うために、システム部にプロ
ジェクトチームを設置し作業を進めてきた。プロジェクトチームは、アプリケーション開発
とネットワーク構築を担当するメンバで構成した。

プロジェクトチームは、3月に図1のネットワーク構築を完了させ、4月に予定どおりア
プリケーションの総合テストに入った。総合テストは図2に示すように、東京倉庫にメイン
サーバを、また本社にローカルサーバとクライアントを設置し、構築したネットワークを利
用して本社と倉庫間で実施した。



図2 総合テスト構成

総合テストでは、機能面の検証確認に加え、アプリケーションの処理時間の測定を特に重
点的に実施した。一連のテストで、複数商品の受注入力処理時間に特に大きな問題があるこ
とが分かった。状況把握のために、受注入力処理での更新処理時間及びクライアントとロー
カルサーバ間、クライアントとメインサーバ間で発生した通信フレーム数を詳細に計測し、
表1、2の結果を得た。表1、2は、1受注当たりの商品コード数を1、4、8と変化させ
たときの更新処理時間と、更新処理で発生した通信フレーム数を計測した結果である。また、
通信フレームをLANアナライザによって測定した結果、SQL文によるクライアントとサー
バとのやり取りでは、送信データに対して必ず応答データがその都度返送されることが確認
できた。

受注入力処理では、商品コード、出荷形態、数量などの項目を入力後、更新キー入力で更
新処理が行われる。また、更新処理は図2に示したように、ローカルサーバ、メインサーバ
の順で行われる。

表1 受注入力処理での更新処理時間

1受注当たりの
商品コード数
総更新処理
時間(秒)
ローカルサーバ
更新処理時間(秒)
メインサーバ
更新処理時間(秒)
1 10 3 7
4 19 5 14
8 33 12 21

注:更新処理時間には、クライアントとサーバ間のフレーム伝送時間も含まれる。

表2 受注入力処理の更新処理での発生フレーム数

1受注当たりの
商品コード数
総フレーム数 ローカルサーバ間
フレーム数
メインサーバ間
フレーム数
1 920 626 294
4 1,850 1,258 592
8 2,680 1,822 858

注:フレーム長は100バイト

プロジェクトチームは、計測結果から各営業所での処理時間を予測した。予測された処理
時間は、とても実用に耐えられるものではなかった。しかし、全受注入力処理のうち、1受
注当たりの商品コード数が4以下のものは約80%を占めることから、スケジュールに従い、
とりあえずシステムをリリースすることにした。そして、リリース後処理時間短縮のための
本格的対策を行うことにした。

システムのリリース後、プロジェクトチームはプログラム処理の高速化とネットワークの
高速化を実施した。

ネットワークの高速化については、幾つかの案の中から、通信事業者Q社が提案したフレ
ームリレー方式が最も効果的と判断できたので採用した。Q社からの提案は図3のような内
容であった。また、Q社のフレームリレー仕様を表3に示す。



図3 Q社が提案したネットワーク

表3 Q社フレームリレー仕様

項 目  仕 様
アクセス回線  高速ディジタル回線
物理インタフェース  Tインタフェース
DLCI制限  32まで
通信形態  PVC(相手固定接続)
CIR品目  16、32、64、128、192、256、384、512、768kビット/秒、
1Mビット/秒
アクセス回線品目  64、128、192、256、384、512、768kビット/秒、1.5Mビット/秒
CIR  フレームリレー網が正常な状態のときに保証される情報転送速度
アクセス回線とCIRの 
組合せに関する制約
一つのアクセス回線に対して、設定可能な一つのCIRはアクセス回線
の速度以下であること。
一つのアクセス回線におけるCIRの総和は、アクセス回線速度の1/4
以上、2倍以下であること。

注 DLCIとはユーザ・網インタフェースにおいて、1本の物理回線上に設定される複数の論理的な通信網を識別
するための識別子のこと。

Q社の提案は、本社、倉庫のアクセス回線速度を128kビット/秒に、各営業所のアクセス
回線速度を64kビット/秒に変更し、フレームリレー網に接続するものであった。この変更
のため、各拠点ルータの設定変更及び端末アダプタ(以下、TAという)の交換と網側の変
更工事が必要になった。

1月にプロジェクトチームは、フレームリレーヘの移行作業を実施した。移行作業は以前
から付合いのあったSI業者に委託した。SI業者は、Q社との調整、要員の確保、作業スケジ
ュールの立案などを行い、表4に示す手順に従って作業を実施した。

各拠点での作業は表4に示すように、各作業の開始、終了を次の手順で確認するようにし
た。作業指示は本部から各拠点のSI業者の作業責任者に伝えられる(SI業者の作業責任者は
作業内容を、作業を担当するQ社の担当者、SI業者のルータ技術者及びP社担当者に指示す
る。作業終了後、作業を実施した担当者は作業終了を作業責任者へ報告する。作業責任者は
結果を確認し、本部へ電話又はファックスで終了報告を行う。
例えば、表4の番号2(1)回線切替え作業は、次の手順で実施する。

@ 本部から、全拠点SI業者の作業責任者へ電話で作業開始指示を行う。
    同時に、本部からQ社のネットワーク管理センタヘ、各アクセスポイントでフレーム
    リレー交換機への接続変更作業を開始するよう電話で指示する。
A Q社の各アクセスポイント担当者は、回線フレームリレー交換機に接続変更する。
B 拠点のQ社の担当者は、持ち込んだTAに回線を接続変更する。
C 切替え作業が終了したら、作業責任者は作業完了を電話又はファックスで本部へ連絡
    する。

このように、各拠点では必ず本部の指示に従って作業を行うようにした。各作業で問題が
発生した場合は、その都度本部で状況を判断して、各拠点に対応指示を出すようにした。ま
た、各作業の終了が予定時間より2時間以上遅れた場合は、本部で今後の対応を判断し、ス
ケジュールの見直しを行うことにした。

表4の番号4(2)の作業で、本社から東京倉庫を経由した営業所ルータとの間での通信テス
トを、相手機器に連続的に複数のICMPエコー要求パケットを送信するpingコマンドを利用
して行ったとき、ICMPエコー要求パケット送信数に対する応答数が、50〜60%になってし
まう問題が発生した。本部では各拠点に指示を出し、詳細な状況把握を行い、次の結果が得
られた。

@ 東京倉庫のLANをLANアナライザで測定したところ、本社設置の汎用機から各端末
    あてのポーリングフレームが、常時約30kビット/秒流れていた。
A 休日だったので、汎用機の端末の電源が切断されていた。
B ルーティング情報は、ルータ間で動的に交換されるように設定されている。

表4 各拠点における移行作業手順

番号 作 業 項 目 拠点作業主担当 予定時間
Q社 SI業者 P社
0 作業者集合 9:00
1 事前作業
@ 集合連格(全拠点→本部)
A 作業準備
9:00〜
9:15
2 (1)回線切替え作業
@ 作業開始連絡(本部→全拠点)
A ネットワーク変更作業
B TAの交換作業
C 作業完了連絡(全拠点→本部)
  9:15〜
9:45
(2)ルータ設定変更作業
@ 設定初期化(本部→全拠点)
A 新設定入力
B 設定情報確認・設定ログの採取
C 作業完了連絡(全拠点→本部)
    9:45〜
11:00
3 [ a ]接続確認
@ 作業開始連絡(本部→全拠点)
A ルータケーブル接続変更
B ルータのコマンドによるLMI状況確認
C ルータのコマンドによるPVCの設定状態確認
D 作業完了連絡(全拠点→本部)
    11:00〜
11:30
4 (1)[ b ]通信テスト
@ 作業開始連絡(本部→全拠点)
A pingコマンドによる通信テスト
B 作業完了連絡(全拠点→本部)
    11:30〜
12:00
(2)倉庫ルータ経由での本社と営業所ルータ間通信テスト
@ 作業開始連絡(本部→全拠点)
A pingコマンドによる通信テスト
B 作業完了連絡(全拠点→本部)
    12:00〜
14:00
5 [ c ]通信テスト
@ 作業開始連絡(本部→全拠点)
A 他拠点サーバへの接続確認
B 作業完了連絡(全拠点→本部)
    14:00〜
15:00
6 業務処理稼動テスト
@ 作業開始連絡(本部→本社、全営業所)
A 業務処理での動作確認
B 作業完了連絡(本社、全営業所→本部)
    15:00〜
16:00
7 事後作業
@ 全作業完了連絡(本部→全拠点)
A 各種器材の梱包、返送準備
B 後片付け
  16:00〜
17:00

注 LMIとは、PVCの状態確認のための機能のこと。

問題切分けのために、状況把握後、直ちに東京倉庫に接続されている4営業所のルータ
電源を切断し、札幌営業所から順次電源を投入して同様のpingコマンドによるテストを行い、
次の結果が得られた。
@ 札幌営業所のルータの電源を投入し、本社から札幌営業所ルータヘpingコマンドを発
行した場合、100%の応答が確認できた。また、同時に札幌営業所から本社ルータ
pingコマンドを発行した場合も、100%の応答が確認できた。
A 次に、仙台営業所のルータの電源を投入し、同様のテストを行った。
札幌営業所と仙台営業所とが接続された状態での通信テストでは、問題は発生しなかっ
た。
B 順次接続営業所を増やし、最後に名古屋営業所のルータの電源を投入し同様なテスト
を行ったときに、pingコマンド発行に対する応答率が低下する現象が発生した。
本部では、まず東京倉庫ルータの障害を想定し、バックアップのために用意した同機種の
ルータに交換してテストを実施したが、同じ現象が再現した。次に、本社ルータのバックア
ップ用で、ルーティング処理能力が高い新機種のルータを東京倉庫に運び、交換しテストし
たところ、問題は発生しなくなった。本部では、東京倉庫にこのルータを用いることを決断
し、移行作業を経続させた。このように当初予測できなかった問題が発生したが、本部の臨
機応変な対応によって問題点は解決でき、フレームリレーへの移行作業を無事完了させるこ
とができた。


設問1 

オンライン物流システムの総合テスト時の状況に関する、次の小問に答えよ。
ここで、LANでの伝送時間とWAN回線の伝送遅延は無視できるものとし、WAN
線での伝送効率は80%とする。計算は表1、2を基に行い、計算結果は小数第1位を四
捨五入して求めよ。

(1)1受注当たりの商品コード数が8のときの、WAN回線のデータ伝送時間を求めよ。

(2)図2の総合テストを本社の代わりに札幌営業所で行った場合、1受注当たりの商品
   コード数が8のときの総更新処理時間を推定する。

  (a)WAN回線のデータ伝送時間を求めよ。
  (b)メインサーバ更新処理時間の中で、WAN回線のデータ伝送以外に要した時間を
     求めよ。
  (c)総更新処理時間を求めよ。

設問2 

フレームリレー網を利用したネットワーク設計に関する、次の小問に答えよ。

(1)フレームリレー網の伝送容量に余裕がある場合、図3のネットワークで設定された
   CIRと実効スループットとの関係を、30字以内で述べよ。

(2)図3のネットワークで、フレームリレー網が正常な状態の場合でも、必ずしも全フ
   レームリレー回線(論理チャネル)に対してCIRのスループットが維持できない場合
   がある。その場合の利用条件を、35字以内で述べよ。

設問3

IPアドレスの設計に関する、次の小問に答えよ。

(1)P社は図1のネットワークを運用していたとき、各ルータWAN回線側インタフ
   ェースにもIPアドレスを設定していた。WAN回線側のネットワークアドレス部のア
   ドレスは、全社で幾つあったかを答えよ。

(2)導入したルータWAN回線側にIPアドレスを設定しないことも可能であるが、設
   定した場合の利点を、35字以内で述べよ。

設問4

あなたの経験に基づいて、フレームリレーへの移行作業に関する、次の小問に答えよ。

(1)表4の[ a ] 〜 [ c ]の確認テスト内容を、それぞれ25字以内で述べよ。

(2)表4の番号2(2)ルータ設定変更作業時、ルータの設定間違いを避けるために実施す
   べきチェック方法を、60字以内で述べよ。

(3)表4では、Q社の作業は予定では9時45分で終了するにもかかわらず、SI業者の要
   求で最後まで残ることになった。その理由を、35字以内で述べよ。

(4)東京倉庫のLANをLANアナライザで調査したところ、汎用機から端末へのポーリ
   ングフレームが測定された。なぜ、本社のルータを越えてパケットが流れたのか、理
   由を100字以内で述べよ。

(5)東京倉庫を経由した拠点ルータ間での接続テストで、pingコマンドに関する応答の
   欠落が発生した。ルータが処理すべきパケットと処理内容を考慮して、欠落が発生す
   る理由を、130字以内で述べよ。

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